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「蟻が空を飛ぶ日」
野火 明
人物
健二(21)
真紀(21)
大道寺(46)
間中(22)
吉倉(35)
清美(17)
第1章
1 代々木公園
緑 に覆われた広大な公園。遠くには新宿の高層ビル
群が見える。
休日の平和で幸福な公園の風景。
広場でフリスビーをする家族達。
散歩するカップル達。
ベンチに二人で座って話をしているカップル達。
森の中の遊歩道を若い夫婦、清岡雅人(35)景子(33)
と小さな女の子、千絵(5)が歩いている。
にこやかに話をしながら幸せそうな家族である。
清岡「ちょっとトイレ行ってくるから、待っててくれる?そこのベンチで」
景子「いいわよ。(子供に)パパおトイレだから待ってましょうね」
千絵「おしっこ?パパ、おしっこ」
清岡、笑いながら30メートルほど離れた公衆トイレへと歩く。
景子と千絵はベンチに座る。
その背後の森を一人の男が歩いている。間中(22)である。
少し離れてもう一人の男も現れる。吉倉(35)である。 2 公衆トイレ 外
公衆トイレの周りには誰もいない。中にも誰もいないようである。
清岡、トイレへ歩き入る。
間中が少し遅れて後をつけてきてトイレへ入る。
3 公衆トイレ 中
清岡、便器の前に立つ。
間中、入ってきて、清岡の後にある個室を確認する。
ドアが開いていて、どの個室にも人がいない。
間中、ポケットから細いワイヤーロープを取り出すと小便をしている
清岡の背後から素早く首に回し、強引に締め上げる。
清岡、最初に少し抵抗するが、すぐにだらりと力が抜け、気絶する。
間中、そのまま、後の個室へ引っ張って入る。
そこへ吉倉が大きな布のバックを持って入ってくる。
間中が入った個室へ入りドアが閉まる。
4 ベンチ〜公衆便所の外
ベンチに座って何か話をしている景子と千絵。
千絵「パパ、迎えに行ってくる」
景子「(笑って)だめよ」
千絵「行くー」
千絵、公衆トイレの方へトコトコとかわいく走り始める。
そして、公衆トイレの近くまで来たとき、若い男が千絵の前に立ち
ふさがる。健二(21)である。
健二「ストップ、止まって!」
千絵、素直に止まり、不思議そうに健二を見る。
健二、しゃがんで千絵に微笑みながら。
健二「ほら、(千絵の足下を指さし)蟻さんが歩いてるでしょ。お嬢ちゃん
踏んづけち ゃうとこだったよ」
千絵、しゃがんで地面を見る。
地面には蟻が列を作ってたくさんいる。
千絵「蟻さん。…いっぱいいる」
健二「働き蟻さんだよ、食べ物をお家に運んでるところだよ」
千絵「お家はどこ?」
健二「この蟻さんの先頭をたどっていくと。…ほら、この穴がお家だよ」
千絵「お家の中はどうなってるの」
健二「食べ物をしまってる部屋があったり、お休みする部屋があったり。
そして奥の方には女王様がいて卵を産んでる部屋があるんだ」
千絵「王様は?」
健二「王様はいないんだ。王様は女王様と結婚してすぐに死んでしまった
んだ。
千絵「かわいそう」
健二「でも、女王様は一人でたくさん卵を産んで、こんなに子供をたくさん
作ったんだよ」
千絵「ねえ、働き蟻さんて、女王様の子供なの?」
健二「もちろんだよ」
千絵「変なの。それじゃ女王様じゃなくて母さんじゃない」
健二「えらいね、よく気がついたね。このお家にいるのはお母さん蟻と
その子供達なんだ」
千絵「へー」
千絵、興味津々で蟻を見ている
健二の背後に公衆トイレが見える。
トイレから間中と吉倉が出てくる。
吉倉は大きな布のバック担いでいる。
二人は早足に消える。
健二「地面にも小さなお友達がいっぱいいるからね。踏まないように気
をつけてね」
千絵「(笑顔)うん!」
健二、笑顔を返し、間中達が消えた方向へと去る。
千絵、地面を注意しながら蟻を踏まないように歩く。
そして、トイレに入る。
千絵(OFF)「パパー、パパー、どこー」
ベンチでは景子が微笑んでその声を聞いている。
5 公園の駐車場
ハイエースの後の扉が開いていて、そこに間中と吉倉が二人
がかりで大きなバックを入れる。
そこへ健二がやってくる。
三人はハイエースへ入る。
健二と間中は後の席。吉倉は助手席へ。
6 ハイエース 中
運転席に大道寺(46)がいる。
大道寺「お疲れさん。今日はラッキーだったな」
間中「ちょうどよくトイレに行ってくれて助かりましたよ」
吉倉「このままチャンスがなかったら一家まとめて始末かなーって
思ってたからよかったですよ」
後の荷台に清岡の入った大きなバックが見える。
大道寺「お前らがお客さんをバックに詰め込んでるときに、子供が
トイレに入ろうとしてな、ひやっとしたけど健二がうまく止めてくれた」
間中「健二、ナイスフォロー」
吉倉「もし、子供が止まらないでトイレに入ってたらどうしてた?」
健二「(冷たい表情で)その場合は出来るだけ一瞬で楽にさせる
しかないでしょうね」
大道寺「まあ、そうならなかったからよかったよ、女、子供を殺る
のは気分がいいもんじゃない」
車が発進する。
7 東京の街
数え切れないほどの人々、車、ビル。
その中をハイエースが走る。
8 広い倉庫
ハイエースが止まっている。
テーブルのような台の上に清岡の死体。
健二、大道寺、間中、吉倉がその周りにいる。
大道寺が釘を清岡の死体の眉間に当てる。そしてハンマーで打つ!
釘は一発で根本まで突き刺さる。
釘にはその持ち主のコードナンバーが刻印されている。
間中、大道寺の釘のすぐ隣に釘を打ち込む。
吉倉、健二も続いて釘を打ち込んでいく。
× × ×
四人は出口に向かって歩いている。
そして彼らが出口に近づいたとき、死体の周りには、どこから
出てきたのか大勢の背広姿の男達が取り囲み始めていた。
フラッシュの光とシャッター音。写真を撮ってるようだ。
健二立ち止まる。
大道寺「(小声で)振り向くな」
健二「分かってます」
健二、歩き出す。
9 駅のホーム(夕暮れ)
健二、大道寺、間中、吉倉、電車を待ってる。
10 東京大学のキャンパス
大勢の学生達が歩いている。
11 東京大学の教室
講義が行われている。
健二がノートをとりながら聞いている。
12 東京大学の食堂
健二と大学の友人達、4〜5人。
彼らは先日行われた合コンの話をしている。
学生A「あまりかわいい子はいなかったな」
学生B「そういいながら、すぐホテルへ連れてったじゃないか」
学生A「まあ、妥協も大切だから」
学生C「健二にぞっこんだったあの子はどうした?」
健二「ああ、今日会うことになってるよ」
学生D「俺、あの子タイプなんだよな」
健二「じゃあ、電話番号教えるよ、4〜5日したらかけてみれば」
学生D「サンキュ、いつも悪いな」
13 健二の家 外観(夜)
二階建てで小さな庭がある、ごく普通の一軒家。
14 健二の家 中 一階(夜)
玄関からの画。
和室。タンスとかあっていかにも家族で住んでる風。
和室のすぐ隣がキッチン。健二が一人で何か料理を作っている。
なかなか手際がいい。
× × ×
キッチンのテーブルで一人食事をする健二。
15 健二の家 中 一階洗面所〜階段(夜)
洗面所で歯を磨く健二。
磨き終わると洗面所を出て、階段を上がる。
16 健二の家 中 二階 健二の部屋(夜)
六畳ほどの部屋。
勉強机で健二が勉強している。
ベッドと本棚のある普通の学生の部屋。
× × ×
勉強している健二。
目覚まし時計のベルが鳴り、健二止める。
時間は10時30分。
その時、携帯電話が鳴り健二出る。
健二「もしもし、着いた?…じゃ、今行くから」
健二、部屋を出る。
17 健二の家 中 玄関(夜)
健二、玄関のドアを開ける。
麗子(20)が立っている。上品なお嬢様風の女性である。
ちょっと緊張した様子。
健二「いらっしゃい。迷わなかった?」
麗子「大丈夫です。すぐ分かりましたから。あ、あの、私、初めての
デートでいきなり、男性の部屋にうかがったりはしたことありま
せんので…。健二さんは特別というか…」
健二「うん、分かってるよ。君のそういう清純なところが気にいった
んだ。まあ、上がって」
麗子「おじゃまします」
麗子、入る。
18 健二の家 玄関〜バスルームの前(夜)
健二の後を着いてゆく麗子。
麗子「ご両親は旅行とかでいらっしゃらないんですか?」
健二「そう、一年前に突然どこかに行っちゃった。何の前触れもなく。
いまだに何の音沙汰もないよ」
麗子「…え、それは…。ご心配でしょう…」
健二「まあね。まあ、待ってるしかないからね」
麗子「…すみません、辛い事を聞いてしまって…」
健二「大丈夫だよ。気にしてないさ」
健二、麗子を軽く抱き、軽くキスをする。
麗子、恥ずかしそうにする。
健二、今度はディープキスをする。
麗子、腰が砕けそうになる。
健二、麗子をお姫様だっこしてバスルームの中へと入る。
健二と麗子の姿は見えなくなるが、バスルームのドアが
開いていて、脱衣所のかごに次々と健二と麗子の脱いだ
服が入れられて行く。
麗子(OFF)「すみません、私、そんなつもりで来たんじゃないんです。
男の人と二人っきりなんて初めてだし…何も知らないんです」
シャワーの音。
× × ×
バスルームからバスタオルを巻いただけの姿の健二と麗子
が出てくる。
和室へ入る二人。
19 健二の家 和室(夜)
布団が敷かれていて、健二と麗子が抱き合っている。
20 健二の家 バスルーム(夜)
健二がシャワーを浴びている。
そして、うがい薬を口に含みうがいをする。
21 健二の家 和室(夜)
布団の上に座ってる麗子。
まだ裸だが毛布を体に巻いている。
シャワーから出た健二が和室に入る。
麗子「(はずしそうに)初めての人が健二さんでよかった」
その言葉を無視して。
健二「今11時30分だからまだ電車あるよ。早くシャワー浴びて帰りなよ」
麗子「…あの、私、お泊まりしてもいいんですけど」
健二「悪いけど、ゆっくり眠れないから帰ってくれないか?君のテクニック
はプロ顔負けで凄かったよ。感謝するから」
麗子「…」
22 健二の家 外観(夜)
ドアが開き、麗子が一人出てくる。
ドアが閉まる。
ちょっと歩いて振り返り、玄関先にペッとツバを吐きかける。
そして怒った表情で去ってゆく。
23 住宅地(夜明け)
白々と夜が明けた住宅地をスーツ姿の健二が歩いている。
ハイエースが走ってきて、健二の脇で止まる。
健二乗り込み、ハイエース走りさる。
24 走るハイエースの中(夜明け)
運転しているのは大道寺。助手席に吉倉。後ろの席に
健二と間中。健二以外は灰色の作業服を着ている。
大道寺「(運転しながら)最終確認だ。8時20分に客が出てくる。健二は
客のすぐ後ろを歩く。この車まで1分15秒。板で隠して車に引きずり込む」 25 山下のマンションの周辺の道
健二がさりげなく歩いている。
腕時計を見る。8時18分。
26 ハイエース
人通りの少ない道にハイエースが止まっている。
道の両脇は2メートルほどの歩道。
大道寺と吉倉が車からベニヤ板を降ろして、壁に立てかけている。
27 山下のンション前の道
健二が歩きながらマンションの方を見ている。彼の位置から、
山下の部屋(5階)のドアが見える。
と、ドアが開き山下が出てくる。
赤ちゃんをだっこした山下の妻も出てきて見送る。
健二「(携帯電話のマイクに)部屋を出ました」
大道寺(OFF)「了解」
マンションから山下が出てくる。が、見知らぬサラリーマン風
の男。西田と談笑しながら歩いている。
健二「(焦る)誰かと一緒です」
大道寺「探偵の芝居だ!うまくやれ!」
健二「了解」
健二、山下の所へ早歩きで行き。
健二「すみません。山下さんですね」
山下「(怪訝そうに)はい?」
健二、名刺を取り出し。
健二「私、こうゆう者です」
名刺には「○○興信所」とある。
訝しげに健二を見る山下。
健二「お忙しい所誠に恐縮ですが、少しお話させていただけないでしょうか?
奥様のことなんですが…」
西田「あの、私、先に行きますから」
山下「あ、どうもすみません」
西田行く。
健二「最近奥様に変わった様子はないでしょうか?」
山下「何ですかあなた、藪から棒に。話が見えませんよ」
健二「すみませんね、突然で。なんていうか、これも仕事ですので」
山下「美代子がどうしたんですか?」
健二「いや、私のクライアントがですね、ご主人が浮気してるんじゃないか
というわけですよ」
山下「それと美代子が何の関係があるっていうんですか?」
健二「その浮気相手が奥様じゃないかと…」
山下「まさか…。子供も小さいしずっと家にいますし」
健二「歩きながら話しますので、あっちですよね」
山下、深刻な顔で歩き始める。
山下「あなた、何か見たんですか?その浮気の現場を」
健二「いや、見てません何も」
山下「じゃあ何で美代子が疑われるんですか?」
健二「クライアントのご主人、あなたの奥様の上司だった人なんですよ」
山下「山田部長ですか…。まさか…。仲人までしてくれたのに。あなた、
山田部長が私の留守の時に、家に来たのを見たんですか?」
健二「いえ、まだ見てません」
山下「山田部長とは毎日顔を合わせてるけど全然そんなそぶりはない…」
山下、今来た道を逆戻りする。
健二「(慌てて)どこへ行くんですか?」
山下「美代子に聞くのが一番早いでしょ!」
28 ハイエース
大道寺達が遠くにいる健二達を見ている。
戻ろうとする山下を健二がなだめている。
大道寺「何やってんだ」
29 山下のマンションの周辺の道
健二「落ち着いてください、山下さん。まだそんな段階じゃないんです。まだ早いん です」
山下止まる。
健二「まだ何の証拠もないんです。今聞いたって無駄ですって」
山下「じゃあ、どうすればいいんですか?」
健二「まあ、私に任せてください」
30 ハイエース
大道寺、こちらに歩いてくる健二達を見て。
大道寺「(皆に言う)あと25秒」
吉倉「寺さん」
大道寺、吉倉の方を見る。吉倉は歩道の先を見るように合図をする。
丁度二人の若い女がこちらに歩いてくる。
大道寺「かち合うか…(携帯電話のマイクに)十秒遅らせろ」
31 ハイエースの近くの道
健二、わざとらしく手帳を落とす。
健二「あ、あ、すみません。ちょっと待ってください」
山下、止まる。健二、手帳を拾う。
健二「奥さん、携帯電話持ってますよね」
32 ハイエ−ス
さっきの二人の若い女がおしゃべりしながら吉倉と大道寺の前を
通りすぎる。
33 ハイエースの近くの道
山下「そりゃ、持ってますけど…」
健二と山下、歩きながら。
健二「着信履歴とか見てもらえないですかね?」
山下「ばかなこと言わないでくださいよ!そんなこと出来るわけないじゃない
ですか!そんなことしたら妻を裏切る事になってしまう…」
健二「でも、奥さんの方が先に裏切ってるかもしれないんですよ」
山下「…(考える)」
健二「お子さんのDNA検査もした方がいいかもしれませんね」
山下「まさか、それはない…」
健二「軽い気持ちで調べられたらいかがですか?紹介しますよ検査するとこ
ろ」
山下「まさか…。そんなことがあるわけがない」
健二と山下はついにハイエースの所まで来る。
そして、大道寺の前を通りすぎる。
大道寺と吉倉、壁に立てかけてあったベニヤを持ち上げ、くるりと
半回転して一瞬、山下と健二の姿がベニヤ板で隠される。
そのまま止まることなくベニヤ板を後ろの扉の方へ持って行くが、
すでに健二と山下の姿は消えてしまっている。
34 ハイエースの中
山下の首が、細いワイヤーロープで締め付けられている…ように
見えるがよく見ると首にかかってなく、アゴのところで止まったまま
絞められている。
絞めているのは間中だ。
彼は渾身の力で山下の首をワイヤーロープで締め上げる。山下は
暴れる。
間中「ちくしょう、うまく引っかからなかった!」
健二は山下の足を押さえている。
大道寺と吉倉はハイエースへ乗り込む。
大道寺「さっさと殺っちゃってくれよ」
大道寺、車を発進させる。
車内からは通学する小学生の列が見える。
間中「早く注射頼む!」
健二は山下の足を、ロープでぐるぐると巻く。
そして注射器を取り出し。
健二「楽にしてやるから」
健二、山下の、みぞうちのあたりに、ワイシャツの上から注射針を
突き立てる。薬液が押し出される。
まだ、体は抵抗を続ける。
が、だんだんと動きが弱くなってくる。
そして、動かなくなる。
間中「あー、焦った」
健二、山下の脈をとる。そして自分のポケットを探って。
健二「あ、懐中電灯忘れた。寺さん、懐中電灯ないっすか?」
大道寺「ダッシュボードの中にあるよ。倉ちゃん、取ってやって」
吉倉「あいよ(ダッシュボードを開け懐中電灯を取り出し)ホイ(健二へ渡す)」
健二「すみません(受け取る)」
山下の、見開いたまま動かない目に、懐中電灯の光を当てたり
消したりを繰り返す。
健二「死亡確認しました」
大道寺「みんな、お疲れさん」
健二・吉倉・間中「(口々に)お疲れさま」
大道寺と吉倉は、タバコに火をつける。
緊張感から解き放された開放感が、車内にあふれる。
35 倉庫
山下の死体を取り囲むように健二、大道寺、間中、吉倉。
死体の額に釘を打ち込む健二。

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